C3.ai (シースリーエーアイ)とは
基本情報
CEO:Tom Siebel (トム シーベル)
事業:クラウドを通じて企業向けに AI プラットフォームを定期購読させるサービスを提供
取引先:アメリカ軍, 石油会社, 大手銀行..etc
売上:約52億円 (2020/10~2020/12決算)
顧客数:64社 (平均契約単価は1億7300万円)
▼公式HP (https://c3.ai) のスタイリッシュなデザインが印象的です。
AI ソフトウェア
C3 AI Suite
C3 AI Suite は「AI を利用するために必要な環境をすべて提供するプラットフォーム」です。
データを収集し、データに応じた分析方法の提案、機械学習モデルの構築、可視化、という本来はデータサイエンティストが行っていた作業を自動化することができます。
さらにパフォーマンスは常に監視されるため、最適なソリューションを見つけることにも寄与し、サードパーティ製のコードを C3 AI 環境に結合させることも可能です。
公式HPによると、”AWS × C3 AI Suite” で AIのアプリケーションを構築した場合、”AWSのネイティブ機能のみ” で構築する場合に比べて「26倍以上」も生産性が向上した、との発表がありました。
<特徴>
1. データの収集・加工という前段階から、モデル作成・結果の予測・可視化 まで一連の流れをサポート
→ データ分析にかかる時間の8割を占める”データの取集・加工”のプロセスを削減
→ 高度なプログラミング, 継続的なメンテナンス, セキュリティ設定が不要
2. 必要な機能はオブジェクト化されている。
→ ユーザーはそれを画面上で組み合わせるだけで様々な機能を実装
→ ビジネス要件の変化にも簡単に対応
3. ビジネスユーザーでも気軽に使える。
→ エンジニアが他の業務に集中できる
→ 現場の人が即座にインサイトを取得しビジネスに反映
C3 AI Applications
C3 AI Applicationは「C3 AI Suite で構築された AI アプリケーションの集合」です。
つまり、ユーザー自身でアプリケーションを開発せず、即座に AI アプリケーションを利用することができます。
業界別で完成された AI アプリケーションが用意されており、その中から自社に適したものを選択するという流れです。
例えば、マネーロンダリング検知に特化したアプリケーションでは、銀行や証券会社のデータから犯罪のリスクが高い取引を特定し、具体的なユーザーと過去の取引まで特定することができます。
▼アプリケーション例

C3 AI CRM
C3 AI CRM は「Microsoft・Adobe・C3.ai の3社のソリューションを組み合わせた AI 駆動の*CRMシステム」です。
CRM最大手セールスフォースの対抗馬ともいわれ、従来のCRM製品よりも “AI色” が強い印象を受けます。
サプライチェーン全体(製品の調達から製造, 販売まで)にわたって予測した結果をタイムリーに活用することが強みで、具体的には以下のような用途で使われます。
※CRM=「顧客情報を一元的に管理/分析し、マーケティング, セールス, カスタマーサービスなどに活用するシステム」
Source: https://c3.ai/wp-content/uploads/2020/07/C3.ai-Data-Sheet-CRM-new.pdf
C3 AI Ex Machina
C3 AI Ex Machina は「ユーザーが画面上のパーツを組み合わせてワークフローを作成するサービス」です。
コーディングの知識がないユーザーでも、データ加工や分析を手軽に行うことができます。
C3 AI サービスの中でも価格帯が抑えられているため、中規模の組織や個人での利用にも適しています。
※ちなみに Ex Machina は、AI をテーマにした映画の主人公の名前です。
Model Driven Architecture
基本概念
モデルドリブンアーキテクチャーとは「分析や設計のモデルを中心としたソフトウェア開発の概念」です。
データ型, データの相互関係, API連携, その他プロセスは全て内部で抽象化されているので、これまで開発者が費やしてきた膨大な時間を削減することができます。
字面だとあっさり聞こえてしまうのですが、極端にいうと「外部から優秀なデータサイエンティストを雇用し、開発環境とリソースを用意して AI を活用する」という部分を1つのサービスで置き換えることができる、という魅力的なサービスです。
現在、機械学習は言語こそほぼ Python で統一されていますが、本格的にエンタープライズな AI 環境を実現するとなると、様々なツールやプラットフォームを複雑に組み合わせる必要があります。
▼世界中に溢れかえるデータ/AI関連のプラットフォーム
Source: https://c3.ai/what-is-enterprise-ai/awash-in-ai-platforms/
マルチクラウド
C3 AI のサービスは、AWS, Azure, GCP など複数のクラウドやプラットフォームに対応しています。
例えば、従来のシステムは特定ベンダーのプラットフォームを利用すると、競合他社のプラットフォームやシステムと結合できにくいという問題がありました。
しかしマルチクラウドに対応するサービスでは、顧客のビジネスに最適な環境をそれぞれ組み合わせて活用することができます。
懸念点
モデルドリブンアーキテクチャーは、データさえ用意すれば機械学習や可視化まで全部やっちゃうよ!という概念でとても聞こえが良いのですが、裏を返せばエンジニアが介入できない (or 難しい) ということを意味します。
AI を活用する上でモデルのチューニングは必要不可欠です。
従来はモデルのパフォーマンスが悪くなった場合、エンジニアがその原因を調べ該当箇所のコードを修正することで、定期的にモデルを改良していました。
ただ C3 AI のようなアーキテクチャーでは、内部が抽象化されているためモデルを手動で修正することができません。
このモデルドリブンアーキテクチャーは10年以上前に注目されたのですが、複雑化されたケースに対応することができず一度廃れてしまったものなのです。
ノーフリーランチ定理で示されているように、あらゆる問題を効率的に解ける万能のモデル/アルゴリズムは存在しません。
しかし、C3 AI のサービスは「顧客が自身で運用できるローコードシステムである」「業界別で異なるモデルが用意されている」という側面を持っているので、きっとビジネスでもうまく活用できるのではないか、と期待することができます。
さて、C3.ai はこれを解決し新時代の覇権を握ることができるのでしょうか。
今後の活躍からも目が離せません。
Tom Siebel
最後に有名なCEO、トムシーベルについて簡単に紹介したいと思います。
御年68歳のシーベルはダンディな雰囲気漂うイケメンCEOです。
Source: https://www.forbes.com/sites/susanadams/2019/06/05/billionaire-tom-siebel-is-offering-his-employees-the-most-generous-education-benefit-ever/
略歴
年代 | 出来事 |
1984〜1990年 | Oracleでトップ営業マンとして活躍 |
1990年 | Oracle経営陣に自分が提案したソフトウェアを断られ退社 |
1990〜1992年 | Gain TechnologyのCEO (後に合併される) |
1993年 | Siebel Systemsを設立し、Oracleで断られたCRM製品を開発 |
2006年 | Siebel SystemsをOracleに売却 |
2009年 | Siebel Systemsを売却したお金でC3.aiを設立 |
2020年(12月) | C3.aiを上場 |
C3.ai と Salesforce (とOracle)の関係
シーベルはソフトウェア営業の神様と呼ばれた Oracle のラリーエリソンが、手塩にかけて育てた Oracle 営業のエースです。
しかしシーベルは Oracle から独立し、起業しました。
その後 Oracle のトップ営業マンとして活躍したのが、セールスフォースCEOのマークベニオフです。
セールスフォースは現在世界の CRM 製品の覇権をにぎっていますが、シーベルは Microsoft や Adobe と協力してこの CRM 業界に一石を投じています。
かつて Oracle のトップ営業マンとして第一線で活躍したシーベルとマーク、果たしてどちらに軍配があがるのでしょうか。
神々の頂上決戦は始まったばかりです。